【第24回】台湾のシュタイナー幼稚園とモンテッソ-リ保育所

執筆者: 山岡 テイ (情報教育研究所所長)

シュタイナー教育とモンテッソーリ教育は、それぞれ独自の教育理論に基づいており、欧米を中心に世界各国でそれらの理論による幼稚園や保育所が数多く運営されています。

ドイツ編では第16回(ドイツのシュタイナー教育と地域の幼児学童保育所[2007年6月-7月])と第17回(モンテッソーリ教育を基にしたドイツの保育所 [2007年8月-9月])でご紹介しました。

今回は台湾でのシュタイナー幼稚園とモンテッソーリ保育所の特徴ある活動の様子をレポートします。

☆流れるように進む教育活動の展開
台中市の台中港路にある「善美真吉兒家幼稚園」はヴァドルフ・シュタイナーの人智哲学に基づく幼稚園です。

園の正門を入ると、緑の多い広い敷地が園舎までのアプローチとして続いています。早速、年長クラスの教室を参与観察させてもらうことにしました。

シュタイナーの幼稚園では毎朝どこでも車座になって集い、歌ってから一日が始まります。お昼までの活動のどの節目にも皆が手をつないで円になって歌います。その繰り返しが有機的な「つながり」となって流れがスムーズに進むように見受けられます。

子ども達と先生が合作してコーナー・テーブルに飾られる独特の人形や小物の色彩、配置が季節の変化を感じさせて、シュタイナーのクラスらしさを表現しています。

季節感を表すコーナー・テーブル

子ども達が自由に遊んでいるときは、先生がたは観察をしながら手仕事をしています。
最初はその場に溶け込むようにと私も毛糸玉を巻きながら部屋の片隅にすわって見ていました。

さて、子ども達はしばらくの間、大きな中華鍋や木片を何かに見たてたごっこ遊びをしたり、ピンクの布で覆われた家のコーナーでお芝居をしていたり、毛糸や織り紐、手染めの布を思い思いに使って遊んでいます。

大きな中華鍋が台湾らしいですね

それまで一部しか点いていなかった灯りを先生がともして動き出すと、みんなで片づけの態勢に入ります。床の上で遊んでいたものを所定の場所に戻すときにも、おもちゃ達に遊んでくれてありがとうと感謝して、それぞれ(おもちゃ)のお家へ帰りましょうと歌いながら、しだいに一列に並び手を洗い、用を足して水を飲みにいく子もいます。

バナナをもらいおやつのお祈りの歌を歌ってからいただきます。歌の種類として台湾オペラの歌曲も一連の流れの中に取り入れて、自然なかたちで台湾語が身につくようにしているとか。基本的には神様や両親、自然や作物に感謝する内容の歌詞です。そのあとはわらべ唄を歌って輪になります。「私はあなたが好き。あなたも私が好き。あなたは花が好き。花は蜂が好き・・・」と輪唱のように続きます。そのあと、先生が一人ひとりの子どもを抱きしめながら体と頭を撫でています。
どこの幼稚園でも輪になって歌を歌う場面に出会います。しかし、シュタイナーの園での歌は、国が異なっていてもその場面ごとに「からだ・心・精神」がひとつに溶け合う魂の表現のように伝わってくることが不思議です。理由のひとつとしては、その国の風土から生れたわらべ唄や旋律が、子ども達の動きや心と自然なかたちで一体化しているからではないでしょうか。

みんなで輪になって歌います

つぎの歌は「案山子」と言って片足で立つ。春が来て農家の人は日笠をかぶり田んぼへ出て行く。馬に乗って種を蒔いて、馬に乗ってカッポカッポ・・・一日の作業が終わり夜を迎える・・・今日は稲を収穫し、翌日はまた馬に乗って出かけて稲を乾燥させて、つぎは稲の脱穀・・・・。種蒔きから収穫までのプロセスを知り称える歌が続きます。

また、輪になって「蜂蜜蝋」を各自がもらいます。まるでキリスト教の礼拝の時にパンをもらうような厳粛な雰囲気で両手を広げて受け取ります。「蜂蜜蝋」は特別なものです。それぞれが感謝しつつ歌いながら作品を創ります。子ども達は大事にこねて生物や植物など自由に形作ります。

その後、園舎の裏側に続く屋外の遊び場を抜けて広い空地のような草むらへ移動します。靴を脱いで「毛虫にでも蝶々にでもなってごらん」と先生が言葉をかけると、子ども達は思い思いに駆けたり舞ったり好きなように遊び始めました。

遊具の間を抜けて移動中 思いっきり走る子、舞う子も

草むらで拾った草木や棒を手にしながら、大きな遊具があるほうへ戻って行き、アスレチックのような遊具を登ったりくぐったりします。自分の順番を待っている子は応援の歌を歌っています。

園舎に帰る途中に調理室の外の前を通過するときには、みんなで調理師のかたに感謝のごあいさつをしました。

クラスに戻ったら手洗いやトイレ・水飲みのあとは円座になって、今度は「ほたる」のお話や5人で海に行った時のお話がありました。自然の様子や海の生物がたくさん登場しました。

その後は当番の子達が昼食の用意をしますが、とてもゆっくりと配膳や盛りつけをしています。待っている子ども達の中には歌を歌って待っている子、疲れてコックリしている子、大きな器の中を混ぜて食べる準備をしている子などさまざま。今日のお昼はご飯に青菜のおひたし、香味野菜たっぷりの魚の煮付けに根野菜を炒めたものです。
みんなに行きわたると、蝋燭をつけて食事の感謝の歌を歌ってからいただきます。

蝋燭をつけて食前のお祈り

朝からいままで流れるように秩序正しく、平和にまるで何事も起きていないようですが、当然のことながら子ども達のけんかは時々あります。

ここでは年長児の子ども達が仲裁を求めてきたときに先生は「私の目を見るのではなくて、お互いの目を見て話し合いましょうね」と二人に解決方法を任せていました。

子どもの発達に合わせた自由への教育を
この幼稚園は「善美真華徳福教育機構」というシュタイナー教育のもとに組織されており、別の場所には「善美真娃得福託児所」があります。7年前から経営していたこの地にあった幼稚園をシュタイナー教育としてリスタートしたのは2006年からです。

素材に使われる小さな毛糸玉 保護者手作りのニットなど作品

善美真華徳福教育機構の執行長である顔干玲先生に台中でのシュタイナー教育についてお話を伺いました。

「台湾にシュタイナー教育は12年くらい前に導入されましたが、私は初期の段階で出会い惹きつけられて、気がついたらそれを周囲に広めることを始めていました。

2000年には『台中市人智哲学発展学会』を開始して、現在は理事長を務めています」と、幼児教育だけではなくてシュタイナー教育発展のための啓蒙活動も数多く行っており、この敷地内に小学校を2008年に開校する準備を進めています。

「現在は、まだ一般的にシュタイナー教育の認知度は低いのですが、この幼稚園でとくに力を入れて行っているのは、保護者への研修講座を定期的に開き保護者へ理解協力を求めて連携を深めていることです」

「他の幼稚園と大きく違うのは家庭と園が教育方針でも一体化していることです。たとえば、子ども中心の生活にして9時までには寝られるようにすると、朝、子どもは元気に起床できます。また、行事の自主的な運営など積極的に園の行事や運営に参加して、保護者達が小学校校舎のペンキ塗りもすべてしてくれています」

「保護者達は研修を終えると、親子関係の改善だけではなく祖父母や夫婦の関係がとても良くなります。親が自分自身を理解することが、結果として内的な成長をもたらしているわけです」

この講座は半年で7回行われ、昼と夜のコースがそれぞれ2時間ずつ開講されています。
シュタイナー理論に基づいた子どもの発達を概説して、親が確かな養育態度を一貫してもつための研修です。

その他にも不定期に、医学や教育、芸術の外国人講師や専門家を招いてセミナーも開いているそうです。http://waldorf.org.tw/beautiful/dad&ma.html

どこの園でも季節暦による行事を大事にしていますが、「一日のリズムは朝から、一週間のリズムは月曜から、そして一年間のリズムは春に民族のお祭りを祝うことから命の成長の大切さを学び感謝することができます」、「台湾ならではの自然からの四季のリズムと恵みを子ども達に感じてもらい、周りの環境に秘められた神秘を体得してもらいたい。それが民族の特徴や文化を生きることにつながります」と語る顔干玲先生。

「現在は、卒業生が午後に学童保育としてこの施設に来ていますが、小学校を開校すること。敷地内に手作り製品や有機農法のお店を建設すること。大人の芸術のための施設を設けて、いろいろな人材が集い、海外のシュタイナー研究者や教育者とも交流できる場を提供したい」と近い未来の構想がつぎつぎに語られていました。

お片づけ終了。ピンクの手染めコットンもかけて。

☆モンテッソーリ教育をベースして拡充を
台北市の中山北路にある私立有縁保育所は、1989年に創立者である園長の薛淑芬先生によって設立されました。

この園はモンテッソーリ教育を中心とした保育内容を展開しています。2007年はモンテッソーリ「子どもの家」設立100周年の行事が世界各国で行われましたが、その時点で台湾でのモンテッソーリ学校として登録している幼児教育施設は76で、台北市内が最も多く26施設でした。

私立有縁保育所は3歳から6歳までの縦割り保育をしています。

一日のプログラムは以下の通りです。

8:30-11:00 モンテッソーリ教育と英語
11:00-11:30 集団学習(歌やお話など)
11:30-11:50 外遊び
11:50-12:45 昼食
12:45-15:00 昼寝と片づけや準備(モンテッソーリ教育)
15:00-16:00 曜日によって美術・体操・音楽など
16:00-16:30 おやつ
16:30-17:30 外遊びや各種教室(数学・科学・芸術など)

上記のように全日クラスは8時半から17時半まで、半日クラスは午前中12時までが受託時間です。そのほかに延長保育は7時半から18時半までです。

1クラスは15人が定員ですが、朝のスタート時から子ども達は、モンテッソーリを基本にした教材の中から自分の好きなお仕事を見つけて黙々と続けています。

好きなお仕事はさまざまです

しばらくすると、部屋の一隅では、3人の子ども達と英語の先生がアルファベットの勉強を始めました。

最初は、「G」は「ガー、ガー」、「H」は「ハー、ハー」と発音の基礎練習。「H」を使って「HOUSE」と並べて単語の練習。読みや意味が答えられると、手元にある親犬の大きなステッカーの上に子犬のシールをもらえます。

小グループでの英語のレッスン

別の場所では、「注意符号」を並べて単語や文章を作っている子もいます。台湾で使われている「注意符号」とは、日本語でいう「ふりがな」にあたります。

注意符号。雨の日→日がくれる・・
しりとり遊びをしています

働く人と職業の内容を表す絵カードとを合わせている子がいます。しばらくすると、その子が興味をもっている職業について、先生に話をしてさらに詳しい内容を聞いています。

台形に色を塗っている子は、机にすわっている先生のところへ持って行って、ほめ言葉のスタンプをもらって区切りをつけて、つぎのことを始めます。部屋の中で、一人ひとりが違う内容を進めており、英語の声もまったく気にならない様子です。

11時からは集団活動になって、地理や交通手段などの話のつぎには、女の子が家から持参したお気に入りの絵本『アラジンと魔法のランプ』をとても上手に読み始めました。

友達の朗読を熱心に聴く子ども達

各自が持ってきたお気に入りのおもちゃの中から「バービー人形」を例にして先生は、「みんなは洋服を着ているけれど、バービーちゃんは洋服を着ていませんね」、「洋服をぬぐのを手伝ってくれるのはだれですか?」と聞くと、「おかあさん」とか「おとうさん」など子ども達が答えて、そこから幼児犯罪を防ぐ安全教育の話へと展開します。

親の知り合いでも洋服は脱がしてもらうのはだめとか、かわいいねとか言われて知らない人に触られそうになった時は逃げる、親や先生に教えるなど具体的な方法をわかりやすい例をあげて、子ども達の意見も聞きながらやりとりして説明していました。

☆教育内容に時勢と保護者の要望を反映
以前この保育所を訪れたときに比べて、モンテッソーリ教育からさらに他の教育方法も多く取り入れている変化を感じました。他の国で訪れるモンテッソーリ教育の園でも一部では同様な動向が見られます。

行きたい外国は?どこにあるの?

園長にお聞きすると、「モンテッソーリ教育が基軸であることに変わりはありません。でも、細部で言えば、モンテッソーリの研修会では蝋燭をつけるのは危ないので安全性の面から止める方向性もあり、現在はうちの園でも中止しました。誕生パーティではケーキに蝋燭を立てますが、ケーキを切って分ける当番の子どもは必ずマスクをして衛生面でも気をつけています」と、とくにサーズ(重症急性呼吸器症候群)以降は園も保護者も一層の注意を払っているそうです。

テーブルをゴシゴシ・・・ 連絡帳や作品集など

また、労働条件の問題だけではなくて、一般的に一つの園での教師の定着率が低くなっている傾向の中で、ここでは先生達がモンテッソーリ協会での研修会にも定期的に参加できるようにシフトの調整など態勢づくりを心がけています。それは、なにより人材の資質向上や確保と保護者の要望に適切に対応していくことを目ざしているからです。

数年前にアメリカのモンテッソーリ教育の園長研修会に、たまたま私が訪問していた友人の園の園長代理として出席させてもらう機会がありました。そのときも同じように専門教員の定着率を上げる論議がされており、国やメソッドを越えた課題のようです。

この園では、保護者の要望を積極的に園活動に取り入れるようにと「ペアレント・ボックス」を設けてコミュニケーションを図り、保護者との個別ミーティングは一人に1時間ずつかけて意見を聴いています。連絡帳も1か月に1回は細かく書いて意見や情報交換をしています。

また、家族がクラスの教育活動を、ホームページからモニターを通して観察することができます。パスワードを入れると、昼寝時間を除く9時半から16時半まで1日中いつでも子ども達の様子を自宅から見ることが可能です。

さらに、地域性として外国人やインターナショナル・スクールも多く、英語教育の徹底は必須事項で開園当初からさまざまな工夫で成果をあげているようです。

掛け算に夢中です 釣り師の網の使い方は?

1学期に1回は参観日と親子で遊ぶ日があります。親子で遊ぶ日は、保護者に園での教育内容を子どもの立場になって自ら体験してもらうとか。簡単そうに見えても結構難しく、子どものほうが先生のように教えてくれて絶好の交流の機会になるようです。

今回のシュタイナー幼稚園とモンテッソーリ保育所は、台湾の中でのひとつの例を取り上げてご紹介しました。

それぞれが異なった個性的な方向性を模索していますが、教育理論、国や地域を越えて共通する特徴的な課題も含まれているように思えました。

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