【第21回】オーストラリアのコミュニティ運営によるファミリーサポートと学童保育

執筆者: 山岡 テイ (情報教育研究所所長)

ファミリー・サポートセンターの先駆例
この10数年の間にオーストラリアで定点観測のように毎回訪れている保育所や幼稚園の中にも、園長や改組のためにまったく別の園のようになった所もあります。
政策変更のためや予算削減で育児支援関連の活動が縮小されるなど、1~2年経つと様変わりしているのはオーストラリアだけとは限りません。
そのような中でも新しい試みとして近年注目されているのは、従来あった地域コミュニティ事業が統合拡大されて再編成された組織です。
日本でも地域のファミリー・サポートセンターの中には、乳幼児から高齢者ケアまですべてをカバーすることを目ざしているところもありますが、その先駆例といえましょう。

オーストラリアの首都キャンベラ市では以前から都心の官庁街の他に、市の南部地域にも公的機関が集まっていました。それらタグラノンとウエストン・クリーク地域では、2002年から「コミュニティズ・アット・ワーク:Communities@Work」というNPOが教育福祉行政サービスを包括的に取り仕切っています。 http://www.commsatwork.org/

すでにそれぞれが25年の歴史をもつ2つの地域コミュニティセンターがお互いのサービス活動を統括したかたちで、さらにパワフルな機動力を備えたということでしょうか。
事業内容としては、コミュニティを基盤にして乳幼児から成人前の子ども達までの保育教育プログラム、若者へのレジャーや娯楽プログラム、家族や社会的なサークルへの実務的な支援、高齢者への援助や移動サービスなど広範囲にわたっています。
年間14万人の利用者に対して、現在は300人のスタッフと150人のボランティアが参加しています。まさに赤ちゃんから祖父母世代まで、あらゆる年代層や文化背景の異なる人達を対象にして、様々な資格教育トレーニングや家庭でのレスパイトケアまで広範囲の活動を行っています。

今回、私がキャンベラ市内のあちこちに住む友人・知人から紹介してもらい、訪問した異なった地区での保育所、学童保育所、多文化や障害児関連の支援団体のいくつかが、このコミュニティズ・アット・ワークの傘下にあったことは驚きでした。

しかし、それもそのはずで、この団体組織はキャンベラ市があるACT(オーストラリア首都特別地域)の26地域にわたり、コミュニティのおよそ40%をカバーしているということでした。

官庁街のビルにある保育所
最初にご紹介します「アバカス保育所」は、コミュニティズ・アット・ワークが管理している保育所の内、ここだけは南部地域のコミュニティにではなくて市の中心部の官庁街にあります。

この保育所は2004年に開設されたばかりですが、財務省に働く人達の子どもがほとんどを占めているため、企業内保育所のような感じで、休み時間や仕事の区切りがついたときに職場からすぐに来て授乳もできます。朝は8時から夕方6時までが受託時間で、同じ乳児クラスでも1週間毎日授乳や様子を見に来る親もいれば、忙しくてまったく顔が出せない人もいるそうです。

生後3ヵ月からの乳児クラスでは10人に2人、その上の2歳までのクラスは15人に3人、3~4歳クラスは22人に2人の先生が配置されています。乳児クラスではモーツアルトのBGMが流れており落ち着いた雰囲気です。

一日の流れは、乳児と幼児クラスでは8時過ぎに登園して、自由遊びのあと9時過ぎには午前のおやつ・軽食、その後にお昼寝をする子もいます。11時半には昼食で、お昼寝をする子としない子は遊んでいます。軽食後、午後2時半ごろから夕方まで、教育的な遊びが続きます。

オーストラリアの保育所は概ねこのようなスケジュールで一日を過ごします。しかし、大学附属やプログラム・メソッドに基づいた保育所では、発達に合わせた美術や音楽、スポーツのカリキュラムが小刻みに用意されているのが特徴的です。

どこの保育所でも4-5歳児はプリスクールのクラスとなり、就学前の学習準備をします。ここでは、10領域に分類されており、音楽・お話・言語能力・歌とリズム・社会性・運動・芸術創作・科学技術・算数能力・戸外での健康や身体発達のプログラムが行われます。

この園では保護者向けの説明書には登園・降園時の規約が細かく教示されており、日焼け対策(サン・スマート・プログラム)や衛生管理、家庭のおもちゃは持込禁止などが書かれています。
家庭のおもちゃは、オーストラリアでも園によっては持参を許可している所もありますが、園の状況や方針によっても異なっています。ここは保護者に公務員が多いのですが、家族の文化背景はフィリピン、中国、韓国などアジア出身者も多くおり、同様に保育者の背景も南米やアジアなど多文化です。

壁に貼られた家族への連絡告知コーナーには、「両親へ」と書かれた紙に朝の登園時に必ず「日焼け止めクリーム」を塗ったかどうかチェックを入れるようにとあります。オーストラリアではとても重視されているルールです。

そして、告知コーナーの一番目立つところには、3枚のグループの集会案内が貼られていました。真中には「祖父母へのサポートプログラム」、その両脇には、「2006年男性の会」と「2006年女性の会」へのお誘いです。

内容は孫の面倒をみている祖父母へは無料の講座で月に1回、講師を招いてお話を聴きながら祖父母世代がお互いに昼食をともにして交流をするものです。また、それぞれ男女で分かれている集まりは、週1回で数回にわたる集中講座でいずれも有料です。

父親向けのほうは「父親学」、母親のほうは「子どもの発達に応じたかかわり方やしつけ」といった一般的なコースの他に「家庭内暴力を受けた母子」のその後のケアや男女別々に「離婚した後のより良い親子関係」の講座の案内がありました。
このようにいろいろな家庭背景にある保護者への支援や配慮は、公共施設であるコミュニティセンターや保育所の壁面や告知コーナーを活用して、さまざまな講座や援助内容が自然なかたちで案内されています。

ジニ・マックフェディエン園長は、親の一人ひとりが心身ともに健全に生活できることが基本なので、「両親との良い関係づくりを心がけており、保護者会など機会あるごとにお話して理解していただいていますが、親や大人にとってどのように子どもを育てるかだけではなくて、いかにその子らしく個性を伸ばすかを大事に保育しています。また、出身国や民族によって子育ての信条が異なっているので、いろいろ学びながらタブーになるような言動は保育者として気をつけて避けるようにしています」とのことでした。

学童クラブでのスポーツ奨励プログラム
 つぎに、日本の学童保育のような「アウトサイド・スクールアワーズケア」を「ジルモア・キッズクラブ」に訪ねました。ここでは、小学生の登校前と下校後の両方の保育をしています。

朝は7時半から9時までで朝ご飯も食べます。保育料は毎朝来る子は1時間11ドルで、一時的に参加する場合は12.50ドルです。その他に年会費が30ドル(臨時7.50ドル)必要です。下校時は3時から6時までで、それぞれ16.50ドルと18ドルです。
6時の約束の時間が過ぎてからのお迎えは15分過ぎるごとに15ドルを払わなくてはなりません。訪問時の2006年には登校前は6人で下校時は8人の児童がいました。
2時半になるとスタッフがアフタヌーン・ティの用意をして、子ども達が来るとすぐにおやつが待っています。その後は、自由に図工やスポーツ、ゲームや勉強を始める子どももいます。
オーストラリアでは子ども用の小さなビリヤード台が公共の施設に必ず設置されています。日本の昔の卓球台のような感覚です。ここにもありましたが、テーブルのように活用していました。

壁には日本語や中国語の他、世界の1年間の祭事が載っている「多文化行事カレンダー」も貼てあります。 オーストラリアの公立小学校では外国語教育として日本語を教えている所が多く、日本からの語学ボランティアで滞在してお手伝いをしている日本人にも時々出会います。

女の子は工作やお絵かき、ごっこ遊びなどを友達同士でしていましたが、男の子達は一斉にテレビゲームがある部屋へ駆け込んでいきます。このような状況をよく見かけます。

子どもの肥満予防もかねてスポーツ奨励
以前、私がオーストラリアに住んでいたときに、いろいろな小学校や学童保育所を訪れました。それは、小学校から大学までの教員で構成されている横と縦の先生方のアジア研究会に所属して、その仲間達の学校の実践を見学する機会に恵まれたからです。

学童保育所は設備や運営の仕方など特徴が異なりますが、とくに日差しが強い夏場は、どこを訪問しても室内でのゲームに興じている子どもたちが意外に多い印象を受けました。

2005年よりオーストラリアでは1,400校以上のアフタースクールの小学生を対象にしたオーストラリア・スポーツ委員会によるAASC (Active After-school Communities)プログラムが奨励されており、2007年には最終的に3,250校の参加を目標にしています。
このプログラムが開始された背景には、過去20年来、子ども達の運動不足がもたらす肥満や身体運動能力、社会性の発達低下があげられます。

子ども達のおよそ40%は放課後には組織立ったスポーツをしておらず、18歳未満の子どもの150万人は肥満であろうと言われています。そのような現状を打破すべく予防健康医学の面からも勧められているのがこのプログラムです。

具体的な実施にあたっては、指導員が巡回して説明があり、保護者も子どもと一緒に調査に回答を寄せるなど協力し、栄養指導も含めて放課後の保育では率先して、行き届いた「playing for life」のリソース・キットを用意してこのプログラムを推し進めています。訪問した学童クラブでもこのプログラムを採用しており、先生方や関係者の間でもなかなか好評価でした。

しかし、子ども達、とくに男の子達はテレビゲームなど屋内で遊ぶのが大好きなのが実情です。それらと上手にバランスをとって、オーストラリア伝統の様々な屋外のスポーツを励行する環境づくりや一週間のプログラムとして組み込んでいく試みが始まっているようでした。

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