【第20回】オーストラリアの地域コミュニティでの子育てグループ

執筆者: 山岡 テイ (情報教育研究所所長)

ユニークな子育てグループが定着
オーストラリアでは、親子での「プレィグループ」と呼ばれるサークルが日本の子育てグループと同じような活動をしています。

現在、全国には8,500のプレィグループがあり10万5千人以上の家族が参加しており、キャンベラがあるACT地区には1973年にスタートして以来、この26年間に200以上の数に増えておよそ2,200の家族が参加しています。
http://www.playgroupaustralia.com.au/act/

キャンベラには様々な子育てグループが活動していますが、その中から地域のコミュニティ・センターでの活発な取り組みの様子をご紹介します。
キッパックス・ユナイティング・コミュニティ・センターでは月曜から土曜まで午前・午後の2時間ずつ12の子育てグループ(Kippax Kids Playgroups)が開かれています。
そこには生後間もない乳児から就学前までの子どもを連れた親子が集まってきます。朝9時半から11時半まで(土曜は10時~12時)の午前セッションと12時半から2時半、3時半から5時までの午後セッションがあります。

なかでもユニークなのは、火曜の「イスラム教の女性達のグループ」、水曜の「おやじの会:Blokes Group」と木曜の「多文化グループ」です。

最初にご紹介するイスラム教のプレィグループは、キリスト教を基盤にしたコミュニティ・センターで、2006年の2月から始まりました。コミュニティ・ケアワーカーのバーニス・クインさんは日々の活動についてつぎのように語っています。

「奉仕活動の基盤はキリスト教に根ざしていますが、日曜は教会のサービスが中心で、他の日は宗教に関係なく地域コミュニティに暮らす年代もライフスタイルも異なったすべての人達に包括的なケアを提供しています」
子育ては宗教や民族を超えてという考えが表れており、いかにも多文化社会のオーストラリアらしい活動といえましょう。

首都キャンベラでは、例年2月には大規模な「多文化祭り」が開催されます。折しも2月6日から19日の会期中にこのイスラム教のグループがスタートしたわけです。

キャンベラで毎年開催される多文化祭りは、多くの協賛スポンサーに支援されて、オーストラリア全土からだけではなくて世界各地からまさに多文化な人たちが一堂に集います。音楽・舞踊・お芝居や映画、展覧会、各種ワークショップなど、国際的な芸術や文化のオリンピックのようで、年を追うごとに魅力的なイベントも増えています。

市の中心街には数えきれないくらいの各国・各民族料理の屋台テントが軒を連ねて、その間をさまざまな民族衣装を着た人たちが行きかう様子は、何度訪れても目を奪われます。

また、つぎの機会にこの「多文化祭り」の詳細はご報告するとして、話を子育てグループに戻しますと、このイスラム教と女性達のプレィグループの母親達は、1年半が経過したつぎの夏には、積極的に他のグループにも参加して交流しているそうです。

このコミュニティ・センターではトレーニングを受けたおばあちゃん世代のヘルパーが各グループでお世話役として参加しています。そして、その中のイスラム教の人とキリスト教の人が一緒にお祈りをしてくれるという、まさに異文化で宗派を超えたエキュメニカル(世界教会主義的)なことが子育てグループから始まっているのは、親子にとってもすばらしい経験といえるでしょう。 

親のニーズを受け止めたグループ作り
水曜のお父さんグループは、おじいちゃんでも誰でも育児をしている男性達が子連れで参加できます。他のグループでお母さん達のおしゃべりに入っていくのは少し抵抗感があるお父さんも、男同士ですと気軽に話ができるので、現在は14人が20人の子ども連れで参加しています。おじいちゃんもいます。

昼間に参加できるお父さんの職業背景は、自宅で仕事をしているとか夜間勤務やパートタイマーなどいろいろですが、父親同士の話題は今夜の晩御飯や子どもの寝かせ方、子どもの気になる態度など母親同士と変わりません。
そして、遊ばせ方は動きがダイナミックなのですが、なんとも言えず、とてもゆったりとリラックスした時間が流れています。
ACTでは唯一の男性グループのため、何十キロも遠くから車で駆けつけて楽しみにしている父親もいます。このグループだけでなくて、他の母親グループにも父親達は来ています。

木曜午前のグループ、昼の「多文化グループ」、午後の「3歳未満のグループ」を訪ねたときに、今日が始めてという1歳半の娘を連れたチベット人のお父さんに出会いました。許可を得て、最初の手続きに同席させてもらいました。プレィグループのコーディネーターであるロビン・ペイジさんが会費や約束事などを説明します。

現在1年間の会費は29ドルでその他に2ドルの雑費が必要です。最初の2週間は試し期間なので無料だそうです。会費はプレィグループ協会のほうへ支払われて、ケガや事故などの補償もされますし、様々な特典つきオーストラリア・ベビーカードや会報がもらえます。

オーストラリアではピーナッツのアレルギーの子どもが多いので、子どもの食べ物のアレルギーについて尋ねてから、持参するお弁当には飴やチップスなどのスナック菓子ではなくて、サンドイッチや野菜・フルーツを持参するようになど細かな会則や注意事項と栄養指導もしていました。

オーストラリアでは、とくに「多文化グループ」と名づけなくても、どのプレィグループの親達の出身国もじつにバライティに富んでいます。

しかし、2001年に始まったこの多文化グループには、以前にESLの教師経験があるアリソンさんがコーディネーターをしており、英語能力が十分ではない母親も安心して参加できるというメリットがあります。

私が訪問したときには、母親の出身国はロシア、ギリシャ、韓国、イタリア、中国、チベットなどでした。1歳児の親でオーストラリア人の友人同士で参加している親子もいました。彼女達は保健センターの両親学級で知り合い、その後は子育て仲間でお互いの家に集まっていたけれど、遊びにも広がりが出るのでここに来るようになったそうです。
母親達は車で通うためか、いくつかの他の「プレィグループ・ショッピング」をして比較した後に決めるようです。また、高校で講師をしている別の母親は1週間のうち、2日間は9時から5時まで保育所に預けており、他の曜日はここに子どもと一緒に参加していました。

オーストラリアやニュージーランドでは、パートタイムやフリーで働いていたり、学生や習い事などをしていたりする母親は、保育所だけではなくて、いろいろな場所やセッションに、親子で参加してから自分で決めていることが多いです。
キッパックスの子育てグループは人気があり、1グループ15人前後が定員ですが、ウェイティング・リストには常時参加希望者が載っています。

プレィグループ全体のコーディネイトをしているロビンさんのお話では、12年前に始まったときは3つのグループでしたが、現在は子どもの年齢や親のニーズに対応した企画を提供し、音楽やリズム体操のプログラム・メソッドを導入するなど保育方法も工夫を重ねています。

また、産後うつ病や育児不安で深刻な状態の親には、グループセラピーや個別のカウンセリング相談も専門家を交えて行っています。
「親や子ども達にどのようなニーズがあるのかを、世代や経験が異なるチームメンバーで一緒に考えながら、地域コミュニティ・サービスができることの可能性を試みています」と語る彼女からは使命感が伝わってきました。

「親子で子育てグループに加わることで、親にとっては地域に馴じんで知り合いもできますし、子ども達には社会性がつきます」さらに、「ここで出会った親子同士のつながりや経験を近所のコミュニティに戻ってからも広げていって欲しいです」と、にこやかにロビンさんは語っていました。

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