【第14回】変わりつつある韓国の幼稚園・保育所事情

執筆者: 山岡 テイ (情報教育研究所所長)

日本に住む韓国・朝鮮人は1991年の69万3,791人をピークにして94年には外国人登録者数の50%を占めていました。しかし、近年は中国や南米からの家族が急増し2003年には32.1%に減少したものの、外国籍の中でもっとも人数が多く、長い間、園や学校、地域でお互いに影響を受け合っています。昨年の韓流ブームで、さらに身近な存在になりましたが、そのわりには知っているようで知らないのが韓国の幼児教育事情ではないでしょうか。
そこで、今回は韓国の都市部で特色のある教育・保育プログラムを実践している有名幼稚園や保育所を尋ねて、幼児教育の最前線情報をレポートします。

☆幼児教育法の改定
 韓国の幼稚園や保育所のシステムは基本的には日本と類似しています。幼稚園には国公立と私立があり、満3歳児クラスから満5歳児クラスまでの3学年に加えて、年齢混合クラスを設けている園もあり、教育部の管轄下にあります。そして、保育所は0歳から小学校就学前までで、管轄は保健福祉部です。韓国では新年になると一つ年をとります。年齢は数え年で言うので、4歳から7歳の子ども達が幼稚園児の中心年齢です。
保育施設にはいくつかの種類があり、日本の保育所に近いのは「オリニチブ(子どもの家)」と呼ばれており、国公立と私立、企業内保育所も含まれます。その他には、家庭保育施設の「ノリバン(遊び部屋)」があります。
韓国では、長い年月にわたって討論されてきた「幼児教育法」が2003年の1月8日に国会本会議を通過して、今年の1月末から施行されることになりました。いままでは幼児教育振興法、初・中等教育法や乳幼児保育法などに含まれていた幼児教育関連の条項を体系化して大幅に改定されたのです。そのため、どこの園に行っても今春の新学期から幼稚園や保育所が変わると、この話題で持ちきりでした。
新しい幼児教育法の特徴としては、1997年から進められていた「満5歳児の無償保育」や「幼稚園の設立や人件費を国や地方自治体が補助する」などの他、教育機関や保育の設備環境や条件が整備されて、質の高い幼児教育環境を目指すことになりました。
しかし、韓国では、日本同様に出生率が低下し続けており、2002年は1.33、2003年には日本の1.29よりも低い1.19という少子化を辿っています。この10数年の間にも私が韓国の幼稚園を訪れるたびに幼稚園や保育所を巡る状況が大きく変化していることを感じました。とくに、90年代の後半には私立の幼稚園経営者が保育所を経営するようになっていたり、大規模な幼稚園が今学期で終了するということで、数名の年長児しか残っていなかったり、また、少子化のために幼稚園数が10年前に比べて5分の1に減少した地区もありました。女性の労働力は韓国の国家統計局2004年12月の統計では49.8%で、働く既婚者も年々増えています。http://kostat.go.kr/portal/korea/index.action
そのような社会的ニーズに伴い、長時間保育の需要に応えて、都市部の幼稚園では延長保育を行う全日制のクラスを増設し、また、幼稚園と子どもの家が同じ施設内で運営されるなど韓国スタイルの幼保一元化の課題を抱えているのが現状です。

☆子どもの創造力を伸ばす
今回最初に訪れた安中市の子どもの家(現・署垣幼稚園)に一歩入ると、園児の手作り作品が入り口からすべての階でお出迎えという感じで、まるで、そこは小さな芸術家達のアトリエのような印象を受けました。

入り口に飾られた恐竜の絵も子ども達が6ヵ月かけて描いた作品ですが、恐竜について1週間以上も調べた結果が形や色合いにも生かされていました。最初は青色だったのを次の日は茶色に塗り替えたので、先生が子ども達に理由を聞くと、「恐竜は骨になって残っているけど、青でも茶色でもいろんな色のがいたんだよ」との説明が返ってきました。

施設のインテリアの色調は明るいオフホワイトに統一されていて、大きなガラス窓からは部屋の内側も、また、部屋から外の景色もよく見渡されるようになっていました。
李正子園長がヨーロッパやアメリカなど諸外国を視察した結果が施設環境の隅々に生かされています。「床や壁には色をつけないで、広い空間スペースを設けました。それはオフホワイトのキャンパスの上に子ども達が原色で彩りをつけていけるように、大きなガラスは自然光が入り、外の景色がよく見えるように」という配慮からでした。
広いスペースを確保している反面、廊下のコーナーをじょうずに活用して、子どもが一人でゆっくり自分だけの空間や時間を持てるスポットもいくつか設けてありました。

この園では、とくに、子どもが身の回りの物や自然をじっくりと観察して表現することに力を入れています。細密画のようにていねいに描かれた子ども達の作品が所狭しと飾られており、それらを見た保護者の感想も壁に貼られていました。

レッジョ・エミリアやシャタイナーの教育メソッドの影響を感じましたが、園長独自の教育哲学に支えられている工夫が施設の随所に表れていました。たとえば、遠足や散歩に出かけた後は、季節による木々や草花など自然の移り変わりを言葉ではなくて、繊細な色やさまざまな素材を用いて形で表現するようにしています。子ども達がコラージュや造形の素材として使う材料を探すために、園長先生はじめスタッフの先生方は野山や林、海辺、手芸や金属工具の材料店などへと東奔西走しています。

「子ども達にはなるべく加工品ではなくて、自然の素材を用意してそれらの中から自由な発想で選んで表現してもらいたい」、「子どもは素材を選んで自分なりの表現をします。たとえば、朝登園するときに、霜柱を踏むと、ビリビリとかパリッという感じ。雪の上で転ぶとツルツル、スサスサ、ズズズーなど、子どもが感じる擬声音が素材や色で形になって表現されます」

李園長先生は、以前はソウル市内で園を経営していましたが、それまでの教え込む教育ではなくて、子どもを中心に遊びながら子どもの自主性を育てる保育を目ざしてこの園を2002年に開設しました。現在は、満3歳児から5歳児までの3学年で1クラス20名の6クラスですが、9時から午後2時までのクラスと夜7時までの延長保育のクラスがあります。保育者は有資格者が11名、補助の先生が5人です。先生方で研究グループを作り、朝礼での伝達のほかに金曜の夜はお互いに意見交換の討論会やプロジェクトの成果を夜遅くまで報告しあうなど研究熱心な様子でした。

ところで、「絵が苦手な子や造形的な表現があまり得意でない子は気後れするのでは?」という質問には、お互いに評価しあい、一人ひとりの個性や観察の視点が違うことを子ども同士間でも発見できるので、しだいにその子なりの成長が見られるようになるそうです。
「子どもは自分で育つ力を持っている」と熱く語る李先生。園長先生はじめどの先生も子ども達が自分自身で観察眼を育むことができる、そんな環境や素材を与えることをなにより心がけているとのことでした。

☆豊かな環境と設備の中で
昨年OECDが行った15歳児の学習到達度に関する国際比較の3年後経年調査では、韓国が問題解決能力は第1位(日本4位)、数学的リテラシーは第2位(日本1位→6位)、読解力2位(日本8位→14位)と日本の急降下に比べて、韓国の躍進ぶりが目立っていました。その直後に発表された国際教育到達度評価学会(IEA)の国際数学・理科教育調査(TIMSS2003)でも同様の結果でした。韓国の受験生の猛烈な勉強ぶりや家計費の中での教育費増大は国際的にも有名な話です。近年は、少子化に伴って、その熱心な親子での受験への取り組みが年々低年齢化してきているのが現状です。
ソウル市内の代表的な幼稚園はと幼児の保護者や教育関係者に尋ねますと、決まっていくつかの名門大学付属幼稚園の名前が挙げられます。それらの中から今回は代表的な梨花女子大学校、中央大学校、延世大学校の付属幼稚園や保育所の現在をご紹介します。

◍梨花女子大学校師範大学付属梨花幼稚園
梨花女子大学校の付属幼稚園は韓国で長い歴史のある幼稚園の一つです。昨年は1914年の開園から90周年記念として園の軌跡を辿る写真集が出版されました。その前書きによると、年間にしておよそ3,500人の幼児教育関係者が通算15ヵ国もの国から訪れているとか。現在の園長は14代目(2003年〜現在)の洪勇姫先生です。13代目の園長(1995〜2003年)であった李基淑先生は日本にも共同研究や講演などでよくいらしています。9代(1978〜1982年)及び12代目の園長(1993〜1995年)李恩和先生など、私が以前にお目にかかった歴代の園長先生はいずれも師範大学(教育学部)幼児教育学科の教員を兼任なさっています。
10年前の李恩和先生時代に伺ったとき、いままでの長い幼稚園の歴史の中でちょうど全日制のクラスが始まった時でした。幼稚園は日本同様に半日制ですが、時代の要請に合わせて延長クラスが導入されて、現在は、9時〜12時の3歳・4歳・5歳児クラス(金曜は昼食があるため12時半まで)と8時半〜17時半の4歳・5歳の混合クラスで143人の園児が通園しています。この園での特徴的なプログラムは、朝、自分でこれからすることを決めて、その活動をした内容について自己評価を行い先生と話し合いながら、意見を交換しあうことです。遊んだ内容に悲しい顔をしたマーキングをつけた子どもに先生がなぜかと理由を尋ねます。すると、「自分がしたかった遊びの道具を友達が使っていて、貸してもらえなかった」と説明をしてくれるなど、自己主張や友達同士での交渉力などのコミュニケーション力がついていくようです(次々頁の写真参照)。
各コーナーやごっこ遊びもなかなか本格的な道具が揃えてあり、訪れるたびに設備も充実しています。日本でも国公立の幼稚園では入試の一部でくじ引きが採用されていますが、この幼稚園もその方法です。しかしながら、とくに全日制のクラスでは大学関係者も多く含まれており、全体的に高学歴な保護者が多いことが特徴的です。

半日制の教育プログラムは、日本の多くの幼稚園のように登園後は室内と園庭での自由活動が中心ですが、先生が決まったテーマに基づいて歌や絵本など、一斉保育をしている時間もあります。

1日のプログラムの例としては、
9:00 ・登園(先生や友達と挨拶、名札をつける)
9:10 ・計画を立てる(1日の日課、興味のある活動)
9:25 ・室内の自由遊び(美術、科学、言語、音楽、パソコン)
10:05 ・お片づけ、トイレ(遊びの自己評価)
10:15 ・おやつと遊び(当番が片づけ、片づけの後は遊び)
10:40 ・歌(前に習った歌、新しい歌)
10:55 ・室内の自由選択活動
11:25 ・童話・劇
11:55-12:00 ・評価(今日のまとめと明日の連絡)

全日制のクラスでは、午前中は上記と同様な教育的なプログラムが中心で、12:00の昼食、13:20は見学(キャンパス内)、14:20からの午睡の後は自由活動が多くなっています。
洪勇姫園長は、「半日クラスと全日クラス・プログラムのそれぞれの違いや共通性を検討した結果、現在の午後の活動は家庭でのケアと同じような日常生活を取り入れて行っています」と説明していました。具体的には、料理をしたり、買い物に行ったり、いろいろな仕事場に社会見学にも出かけたりしています。幼稚園は眺めの良い小高い丘にある広い大学のキャンパス内に位置している環境を生かして、キャンパス・ツアーに出かけることもできます。

また、韓国はアジアでも儒教的な教えが育児規範としてある国ですので、祖父母や年長者を敬い、伝統を大切にする保育プログラムが組み込まれています。韓国文化の日には、民族衣装を着てお祝いの行事があり、祖父母を園に招いて交流することも盛んです。この園では、保護者の参加意識が高くて、ドアに保護者が提供できる「ボランティア・リスト」の項目が書いて貼り出されている部屋がありました。 たとえば、「手芸、料理、声楽、歯科検診、園芸、バイオリン、ピアノ、科学実験、パソコン、翻訳(英語・中国語・日本語)、車両レンタル、父母の職場訪問」など多彩な項目があげられていました。 訪問した日は目前に90周年の記念行事を控えていたために、保護者が集まって準備の打ち合わせをしていました。

◍延世大学校子ども発達研究所・保育教育クラス
つぎにご紹介するのは、延世大学校の1974年に設立された子ども発達研究所内の保育教育クラスです。ここは3〜4歳児混合クラス(各23人で6クラス)と5歳児(各20人で4クラス)で保育者は25人ですが、午前と午後のクラスがあります。また、働く母親の子どもを対象とした2歳半〜5歳児クラスは、28人の子ども達に保育者が4人で、受託時間は8時から18時までです。
ここは日本で言うと教育系大学の付属幼稚園という感じで、教育実習やリサーチ、教育プログラムの開発を目的とした研究所です。そのため、興味深い独自の特別プログラムが用意されています。たとえば、乳幼児向けではありませんが、夏休みには研究所恒例行事で科学専攻の学生達が引率して小学1〜3年生を対象にしたキャンパス内での「夏の科学キャンプ」も実施されており、毎年好評だそうです。
また、乳幼児をもつ母親同士の情報交換ができる子育てサークルのようなマザーズ・クラスや父親と2歳児のペアレンティング・クラスもあります。父親クラスでは2〜3人の保育者が立会って10組の父子ペアが午後に1時間40分間子どもと一緒に過ごします。自宅で面倒をみるのとは勝手が違うようで、父親はまるで職場で仕事をしているかのように真剣そのものになるようです。

たとえば、「母親達はどのように遊んでいますか?」と、まじめな顔で育児情報を集めることにも熱心だそうです。親子を対象にしたカウンセリング・センターには発達や臨床の専門家達が常駐しています。
半日制と全日制それぞれの施設は別の場所に位置しており、丘陵の斜面を生かした自然のすべり台など、キャンパスの一部がすべて広い園庭という感じで自然に恵まれた環境です。
ここの保育施設に通園できるのは、くじ引きや入試ではありません。研究所のほうで、属性が記入された申し込み用紙を性別、生年月日、居住地などをクラス構成上で吟味して選出します。実際には低年齢児を含む全日制のほうは大学関係者が多くを占めているそうです。
5歳児のクラスを見学したときは、マジックミラーの観察室が教室に併設されており、そこから教室が観察できるようになっていました。基本的に多くの国に共通することですが、とくに幼児教育学科がある大学の付属保育所や幼稚園では、実験観察を目的としたビデオが常時設置されており、観察室があることが多いようです。
ここでは、一斉保育よりは自由活動が中心のプログラムで、子ども達の自発性を養うような設定がされていました。室内でブロック遊びや蟹や魚の冠を作る子、お絵かきをする子がいれば、どの教室からも園庭に直接出られるので、外遊びをする子など、とてものびのびと自由に好きな遊びに集中して遊んでいる様子が印象的でした。
2002年に新しく建設された施設は楕円形でカーヴを描いており、施設内にある本格的な図書館も楕円形の壁に沿って、すわり心地の良いベンチが設けられていました。3人の先生で図書館を管理していますが、母親が来てボランティアで読み聞かせをすることもあります。ここでは園児と保護者の両方に向けて貸し出しが行われていました。

◍中央大学校師範大学付属幼稚園
中央大学校・師範大学(教育学部)の付属幼稚園は1916年に貞洞教会付属幼稚園として発足して1965年に現在の名称に変更しました。1991年から現在まで児童福祉学科の李淑姫教授が園長を務めています。現在の園舎は1998年に新築されて、教室や職員・園長・教務室の他に講堂兼遊戯室、参観室、会議室、資料室、研究室、遊戯資料室、食堂、宿直などを揃えたかなり大規模な建物です。園児は3歳児が20人、4歳児と5歳児は各90人の合計200人で男女比は半々の構成で、保育者は園長・副園長を含めて13人です。

朝一番に14人が出席していた4歳児のクラスを見学させてもらいました。初々しい新人の先生が「世界各国・多文化」をテーマにお話をしています。あらかじめ前日に担当の子どもを決めておき、自宅にあるおみやげなど「外国の物」を持ってきてもらい、中国からのおみやげを持参した子どもとかけ合い形式で進めていきます。その子は中国製の「書道セット」とオレンジ色の石(宝石)がついた「ネックレス」を皆に見せて、それぞれの使い方や素材、形などについてクラスの皆で話し合いながら知識を分け与えていきます。それが終ると、子ども達の後ろで見ていた私は、突然、先生の横に呼ばれました。日本語で何か話すように言われましたので、韓国語と日本語で「こんにちは」と挨拶をしました。すると、「この人はどこの国の人ですか?」とか、「私達とどんなところが似ていて、どこが違いますか?」と子ども達に聞いていました。子ども達は、「日本」、「日本人」、「話すことが違う」など答えていました。このあと、子ども達は班ごとに分かれて新聞を広げました。先生が「この中にどんな国の言葉があるかしら?」と問いかけると、「アメリカ」、「中国」、「韓国」と返答があり、その後で、それぞれの言葉をはさみで切り取る作業をしました。3つに仕切ってある箱にはアメリカ・中国・韓国の国旗がついており、スクラップした新聞の言葉を対応する国旗の場所に仕分けして入れるという手順でした。
自由遊びになると、それぞれが好きなコーナーに行くのですが、このクラスには部屋の一角に「民族館」と呼ばれるガラス張りの小さな部屋があって、世界各国の民族衣装やお人形、韓国の伝統的な生活用品や道具などが並べられています。子ども達はこれらの民族衣装を着せ替え人形かファッションショーのように着替えて楽しむことができます。そして、ここには入り口に通行証を提示するように「切符カウンター」が設置されているなど、民族館のごっこコーナーを通して世界巡りができるようになっていました。
李淑姫園長は、今後のビジョンとして「これからのグローバルな時代に世界の中で活躍できる子ども達を育成するために、幼少時から世界の中の韓国、そして世界の中での自分を意識させていきたいです。それと、友達やまわりの人に思いやりのある社会適応力に富む子どもの性格育成を大切にしています。そのためにも、乳幼児期から一貫した保育を行いたいです」と、すでに、別の施設で子どもの家を11月の開園に向かって建設中とのことでした。
この付属幼稚園も各クラスに観察室が併設されており、保護者は希望するといつでもクラスの様子を観察できます。また、大学の授業用のビデオも撮影されており、資料室には専攻学科の学生達の手による細密で手の凝った教材が大量に保管されているなど、師範大学付属幼稚園の特徴を備えていました。ここにもプレーセラピーやアートセラピーを中心に行っているカウンセリング・センターがありました。 近代的な園庭の先には季節の野菜や果物が栽培されている畑と小動物が飼育されている小さな「動物園」があり、ご一緒して動物達と対面すると、それまで真剣な眼差しでお話になっていた園長先生の顔が急にほころび、それは嬉しそうな表情になりました。小動物は子どもにも先生にも癒し効果があるようでした。 

☆民間財団の子育て支援事業
保育所関連の事業として独自の活動を行っているのは、日本でも電気製品でおなじみの「サムスン」福祉財団の「サムスン包括的保育サービス・プログラム」です。
「サムスン包括的保育サービス」とは、低所得層地域に位置したサムスンの保育サービスで、具体的には乳幼児の保護と教育、父母のための親教育、及び親支援、地域社会との連携を通した社会福祉サービスのことです。
1988年から企業利益の社会還元としてスタートしたサムスン保育事業は、1996年の第3段階まで到達して、1999年から2004年5月までで、低所得者層減免児童の割合が20%以上の保育園7ヵ所を含めて全国に34ヵ所もの保育所を経営しています。
サムスンの包括的保育サービスが開発された背景としては、まず、その目的として、1.子どもの健全な成長を図る 2.女性の社会参加への援助 3.家庭福祉の増進と健全な社会建設が掲げられています。
そこで、ソウル市内にある保育所を訪れました。ここは140人の園児の内、50人が低所得者で10人は保育費を免除されていました。父母達を支援するために社会福祉士が園に常駐しています。また、事業活動の特色のひとつに、母親の職業訓練期間中の給与を保障する制度もあります。この園ではいままで5人の親がこの制度を活用しており、具体的な内容としては調理師の資格をとる人が多いのですが、美容エスティシャンになった母親もいました。工場で働いていると、帰宅は夜遅くなり、子どもと遊ぶ時間がもてないので、管理者資格を取得するなど別の仕事を斡旋してもらうこともあります。また、手に職をつけるにしても、その分野が向いているのかどうかの職業適性テストを最初に実施してくれます。一種の奨学金をもらうことになるためか、一所懸命にがんばって勉強をしますと誓約書を書いて提出するなど、自他共に現状改革を宣言しているようでした。
親の働く時間帯もさまざまなので、子どもの受託時間にも幅がありました。朝7時半〜8時半に登園して、お迎えが18時〜19時半の子どもがいれば、朝は8時〜10時からで16時半に帰宅する子どももいます。教育プログラムは子ども達だけではなくて、親を対象にした教育講座や季節暦の行事も行い、教材や設備も豊富に揃っていました。140人の園児に対して、13人の保育者は1歳児と4歳児クラスには2人ずつで、他の2・3・5歳児クラスには3人ずつという配置でした。サムスン福祉財団の劉愛烈副理事長は、児童教育文化センターの事業として、「これからは、障害児と一緒の統合教育を目ざして新しい保育所を建設予定です」と今後の事業企画を語っていました。

今回は韓国の特色ある幼稚園や保育所をケーススタディとしてレポートしました。最初に述べたように、いま、韓国の幼保一元化は伝統的な幼稚園が全日制を取り入れて、限りなく保育所のケアリングに近づくプログラムを導入し、つぎつぎに増設される私立の保育所はすでに過当競争になってきており、生き残るためには目玉保育やオリジナリティが要求されてきています。
その一例としては、今回訪れたソウル市の私立リトル色童保育所・色童幼稚園では、保育所と幼稚園が同じ建物の中でうまく融合された形で共存していました。この園では教育方針として、優秀な幼児教育の研究者を理論アドバイザーに迎えて、新旧の教育法を折衷していました。具体的には自然教育や有機野菜の食事を推進する一方では、マルチメディア教育や科学実験活動、伝統的な礼儀作法や着物の着方・茶道・華道などあらゆる方面を網羅してこれからの保護者や時代の要請を一足先に実践しているようでした。また、文中でご紹介した安山市の保育所(子どもの家)は、取材後の昨年末に幼稚園に変わるなど、保育者側の経営方針もいくつかの異なった志向性が見られます。
一方、保護者側のほうでは、「第7回ニュージーランドの多様な幼児教育と育児支援サービス」にも紹介しましたが、韓国人の英語圏への幼児連れの母子留学や子どもの留学熱は高まるばかりで、ニュ―ジーランドでは韓国移民がこの10年間に20倍になるなど一種の社会現象になっています。また、近年、韓国・台湾・中国・日本などアジアの都市部の園では少子化・親の高学歴化による教育期待の先鋭化、働く母親の増加による長時間保育のニーズなど共通した背景で同じような課題を抱えています。幼保一元化の動きはアジアだけではなく、少子化を辿る多くの国が直面しています。加えて、国際間での専門家同士の交流や海外研修が頻繁に行われるために、教育プログラムや設備環境も年々類似してきて、その国らしさが薄れてきているように感じます。幼児の習い事や園での英語教育熱、教育メソッドや教材の均一化などはどの国も共通項のようです。
多文化子育ての核心は、女の子らしく・男の子らしく、日本人らしくではなくて、個としてのその子らしさをつぶさない子育てや保育を心がけることに尽きるように思います。

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