【第13回】成育環境を活かした母語による教育支援活動

執筆者: 山岡 テイ (情報教育研究所所長)

多文化な背景をもつ多くの家庭では、子ども達がこれからずっと日本で教育を受けて生活をしていくためには、日本語能力を確実に身につけることが大事であると受けとめています。しかし、その一方では、子ども自身のアイデンティティや家族とのコミュニケーション、将来に向けての語学力の必要性からも日本語だけではなくて同時に母語や母文化も受け継いで欲しいと願っています。 また、小学生や中学生になって来日した子ども達の学習言語は、取り出し授業で日本語を教えてもらうだけでは十分とはいえず、母語で教科を学ぶことでより早く理解が深まることがあります。
今回は、多文化な子ども達が育っている日本の教育現場や地域での母語支援活動と海外での母語としての日本語教育の実状をレポートしました。

☆母語による教科学習支援
神奈川県横浜市は中華街に代表されるように昔から外国人家族が多く居住しています。横浜市の平成16年10月末現在での外国人登録者数は6万7千707人で横浜市民の1.9%を占めており、その内訳としては、中国が33.9%、韓国・朝鮮23.5%、フィリピン10.2%、ブラジル5.7%が上位4カ国です。(2018年統計:http://www.city.yokohama.lg.jp/ex/stat/jinko/non-jp/new-j.html
(財)横浜市国際交流協会(YOKE)の『平成15年度 母語を生かした支援モデル事業報告書』によりますと、横浜市内の小中学校には、平成15年5月1日現在で、2,340人の児童・生徒が在籍しており、その中で日本語指導が必要な子どもは694人。さらに、日本国籍であっても、多文化な背景の家庭で日本語指導を必要としている児童・生徒は234人おり、合わせるとおよそ4割で、全児童・生徒の5人に2人が日本語指導の必要があります。https://www.yokeweb.com/ 横浜市では、市内4ヵ所の小学校に「日本語教室」が設置されており、日本語指導が必要な児童を対象に多言語ができる日本語講師による日本語の指導が行われています。また、日本語指導が必要な子どもが5人以上いる学校には、原則として1人の国際教室担当教員が配置され、「国際教室」が設置されます。 「国際教室」では、日本語指導や教科指導とともに、生活適応指導やアイデンティティの確立を支援する活動も行われています。平成16年度には、市全体で、小学校が32校、中学校では16校が設置されており、担当教員は5人以上で1人、20人以上で2人です。
就学前の幼児の生活言語として必要とされる日本語に比べて、小学校に入学してからの学習言語として日本語能力は、ただ聞いて話せるだけでは十分ではありません。さらに、小学校中学年以降や中学校になってから来日した子ども達が身につけなければならない学習言語の語彙は相当の量を必要としています。日本で生まれて日本語で育った子ども達の中でも学力不足や友人間でうまく適応できない子どもが増えている現状の中で、外国籍や外国につながる多文化な子どもは授業内容を学力以前に日本語として理解できないとなると、学校生活自体が健全に送ることが危ぶまれます。さらに、思春期にかかる子ども達は心の問題でもむずかしい時期にさしかかるので、ますます困難な状況になります。言語専門家の間では、小学校高学年の子どもの場合は、それまで学習してきた母語で教科を学ぶことの有効性を支持する学説も多いようです。学校での取り出し授業による日本語指導は多くの区市町村の教育委員会から日本語指導者が派遣されて行われています。しかし、母語による教科学習支援はまだまだ公的な教育の中で制度としては確立されていないのが実状です。
そこで、(財)横浜国際交流協会では、母語を生かした「学習支援」モデル事業として、通訳ボランティアの募集・登録・研修派遣を行い、市内の中区港中学校において平成14年度から中国語による学習支援、平成15年度からは、鶴見区鶴見中学校、市場中学校、生麦中学校、神奈川区六角橋中学校でスペイン語による学習指導を現場の先生達と協働で実施しました。
港中学校の国際教室担当の高田文芳先生は、「学校の外からボランティアの方が学校に入ることで、当初は安全面、個人の内部資料の漏洩、担当教科の教師との相性や教育プランとの兼ね合いなどを危惧したのですが、とりあえず実施した結果は皆の協力体制でうまくいきました」と語っていました。 港中学では現在、国際教室18名の生徒に2名の専任教員が指導にあたり、生徒一人ひとりの教科補習授業を行っています。実施にあたっては、11名の学習支援ボランティアが週1回2限連続で各教科の教員とペアになり国語・数学・英語・社会・理科・技術の教科学習を国際教室での取り出し授業でサポートしました。

実際に学習支援ボランティアとして参加した周惠雪さんのお話では、「生徒さんが授業の内容がわからないときに、先生にどのように質問してよいかうまく表現できない、そういうとき間に入って代わりに質問します」、「中学生になると、照れもあって初対面では打ち解けることはむずかしい。でも、何度か会っているうちに、どのようなことが理解できないのか、どこでつまずいているのかがわかってくる」とか。まさにそれが言語の壁を乗り越えるだけではなくて、個別対応での学習支援そのものの本質だと思います。
生徒や教員を対象にした母語による学習支援のアンケート結果では、生徒側は「先生の話すことがわかるようになった」、「先生にわからないことを質問しやすくなった」などの効果を認めており、教員の感想でも生徒の学習面・精神面の両方で進歩が見られたと報告されていました。

☆いちょう団地での多文化共生
 横浜市の中でも泉区は現在もっとも、ベトナムとカンボジアの居住者が多く、横浜市全体の外国人登録者数のベトナム人は46.6%、カンボジア人は41.1%が泉区に集中しています。それは、平成10年まで隣接する大和市に「インドシナ難民定住促進センター」があり、そこに居住していた人達がお隣の泉区のいちょう団地に移り住むようになったことと関係しています。以前から泉区にある保育所には大勢のベトナムやカンボジアの子ども達が入所しており、一時期は園児の大半を外国籍の子ども達が占める状況でした。彼らが母国から家族を呼び寄せる他に、以前から居住している中国帰国者の家族も含め団地の約3割が外国出身世帯という状況になっています。
神奈川県営いちょう団地の中にあるいちょう小学校では、平成16年5月1日現在で、在籍児童215人中、外国籍の児童はベトナム46人、中国22人、カンボジア6人、ラオス3人など81人で、その他に多文化な外国につながる児童(日本国籍であるが外国にルーツをもつ)34人も含めると53.5%と過半数を超えています。http://www.edu.city.yokohama.jp/sch/es/icho/
いちょう小学校では「全職員による協力指導体制=全校TT」を基盤にして、全職員で子どもの育ちを支える体制をとっています。さらに外部からの支援者を積極的に受け入れ、地域で協働して子どもの育ちを支えるネットワークづくりを進めています。外国人児童への支援として、国際教室担当教員が2名配置されている他、横浜市教育委員会から、中国語・ベトナム語・カンボジア語を話せる日本語指導講師が派遣され、日本語指導や生活適応指導を実施しています。この学校の特徴として、地域の自治会や子ども会、子ども達の日本語指導や学習支援に関わっている地域のボランティア団体との協働体制を目ざしている姿勢が感じられます。
平成14年度から、文化庁支援事業として「学校の余裕教室等を活用した親子参加型の日本語教室開設事業」をNPOやボランティアグループと協働で、放課後は「子どもの日本語教室」、夜は「親子の日本語教室」を学期ごとに10回の集中講座で開講しました。また、働く保護者が多いことから、保育所のように夜に懇談会を開いています。
1998年からは、上飯田地区の4つの学校で連絡会を結成して、横の連携ネットワークづくりも行っており、この連絡会の実践が評価されて「第34回博報賞・文部科学大臣奨励賞」を受賞しています。さらに、とても大事なことですが、保育所や幼稚園や高校との連携も行い情報交換をしており、園児から高校生まで縦につなぐ役割も果たしています。いちょう小学校・飯田北小学校・上飯田小学校・上飯田中学校の4校連絡会では、それぞれが多文化共生理解教育として実践したプログラムの相互報告や情報交流も行っています。
いちょう小学校や前出の港中学校に共通していることがいくつかあげられます。

まず、(1)同じ教室に多文化な子ども達と一緒に学んでいることが、他の子ども達にとっては特別のことではありません。それだけ人数が多い訳です。 (2)教員だけではなくて学校に関わる大勢の地域の人達が主体的に協働体制を作っています。行政や国際交流協会、保護者や民間のボランティア・NPO、大学などの研究者や学生ボランティア、他校の先生方との横の連携によって運営されています。 (3)それらが円滑に機能していくように要になって活動している校長や担当の先生方の存在があります。これらのどれもが教育や生活支援のために必要な条件のように思えました。
ところで、これら母語による学習支援のセミナーが(財)神奈川県国際交流協会(YOKE)の主催で11月13日に開催されました。
横浜市栄区の本郷台「あーすぷらざ(地球市民かなざわプラザ)にある(財)神奈川県国際交流協会は、1977年に設立されて地球市民としての多文化理解をめざして「平和・環境・開発・人権」を基盤としたユニークな実践活動を精力的に行っています。http://www.kifjp.org/
その一環として、2004年度の地球市民学習リーダーセミナー「まなびの道具箱」の第3回「外国人児童生徒の育ちを支える仕組みづくり~学校と地域の連携を活かした取り組みから~」が、神奈川県国際教育研究協議会との共催で開催されました。当日は30名の定員に対して80名を超える教育関係者やボランティア、NGOなどの人達が集まり関心の高さが伺われました。
セミナーの内容は、(財)横浜市国際協会(YOKE)と地域の中学校との連携で平成14年度から行った横浜市の「母語を生かした学習支援モデル事業」と東京都新宿区の教育委員会と地域・学校を結ぶスクールコーディネーターの活動について、現場の担当関係者から事例報告がありました。

質疑応答では、子どもの母語が使えるボランティアをどのようにすると見つけることができるかと若い男性が尋ねると、偶然にも同じ市から参加していた20年以上も日本語支援をしているベテランのボランティアの方が名乗り出て助言をするなど、思わぬ出会いの機会がありました。また、行政や教育委員会、民間のボランティア団体がどのように有機的に連携していくのか、最初はどこから話をもちかけたのかなど核心をついた質問も出ていました。上記の小中学校は教員と保護者が中心になって、教育委員会だけでなくて周りの地域コミュニティの住民や大勢の協力ボランティア団体、賛同者や研究者が支援活動をしています。そして、さまざまな機会を活用して外に「開かれた学校」として、活動内容を広報してきたことで、支援の輪が広がってきたのではないでしょうか。このような横のネットワークや情報交流ができる学習会の企画は意義があると思います。

☆多文化な子ども達の放課後の居場所
いちょう団地の中にはいくつかの日本語や母語による学習支援のボランティア団体があります。早川秀樹さんが主宰する「多文化まちづくり工房」は、いちょう小学校の児童達を放課後だけではなくて、夏休みの学習教室にもボランティアで参加するかたちで教科補習の支援活動にも携わっています。http://www.pref.kanagawa.jp/cnt/f5258/p27682.html
早川さんは10年前の大学生時代から、地域の外国籍の大人から子どもまでの生活自立支援を大勢のボランティアの方達と続けています。「現時点では一人ひとりの子ども達がいかに力を発揮できるようにすることが先決」という早川さんですが、「ここに出入りして育った若者が日本人のスタッフに母語を教えている姿を見た子ども達が、この先、母語もちょっといいなと思うような機会はあると思う」と長期的な視点で取り組んでいます。
このような日本語や母語による学習支援を行っているボランティア団体は神奈川県内にいくつかあり、(財)神奈川県国際交流協会が、「かながわ日本語学習マップ」で案内しています。http://www.kifjp.org/classroom/

その中のひとつである「信愛塾」を訪ねました。NPO法人在日外国人教育生活相談センター・信愛塾は横浜市南区にあります。
最寄りの駅は中区の石川町ですが、横浜市の外国人登録者数は南区と中区の両方を合わせると21,186人で、横浜市全体の31.3%がこの2つの区に集中して住んでいるわけです。また、中国、韓国・朝鮮、フィリピン、タイの出身者はすべて中区がもっとも多く、ついで南区が多いという順になっています。
そのような地域性を反映して、この信愛塾には、近隣から中国・フィリピン・台湾・韓国・タイ・日本などの国籍をもつ子ども達が集まってきます。小学生から大学生まで全体で40人くらいの子ども達が放課後の居場所として、ここに集い、ボランティアの先生から母語による学習支援を受けています。現在は、中国人やフィリピン人が多いので、水曜日の午後はタガログ語や中国語のボランティアが参加してくれています。私が訪れたときには、台湾人の陳怡伶さんがフィリピンや中国の子ども達に英語を教えていました。来日して5年目という陳さんは台湾の大学で英語を教えていた経験を生かして、英語と中国語、日本語を使って子ども達に楽しみながら英語を学べるような進め方で、毎週1回この信愛塾でボランティアをしています。三々五々集まってくる子ども達は、放課後教室や学童クラブというよりは、近くの親戚の家というか第2のわが家にでも遊びに来ている感じでリラックスしていました。
信愛塾は1978年に横浜市中区で民族差別の運動から始まりました。1983年から南区に移転して韓国・朝鮮語講座や子ども会、識字教室の活動を開始して、現在の場所に移転したのは2001年です。日本に居住する外国人を中心とした人権問題と多文化な背景をもつ子ども達への学習支援活動を続けています。高校生や大学生を対象とした韓国・朝鮮学習会、スタディツアーや合宿、イベントへの参加などを行っています。母語や日本語による学習支援の他にも、子ども会活動として、サマーキャンプやハイキング、クリスマス会などの行事も実施しています。
センター長をしている竹川真理子さんは、「ここにはいろいろな家族背景をもつ子ども達が集まってきます。中には複雑な家庭環境の子どももいますので、日本語や母語による学習支援をするだけでは十分ではありません」と語るように、普段から子ども達の様子を家族のような愛情をもってよく見守っているようです。小学校に入って日本語も母語も中途半端な状態(ダブルリミテッド)な子ども達にとっては、補習教室は有益ですが、日本語に不自由がない子ども達が自分のルーツとしての母語を保持していくためにどの程度努力をするかはむずかしい問題です。
「母語教室は母語保持のために親が子どもを通わせたいという希望と、それを子どもが受け入れて、実際的に支援してくれる民間ボランティアが存在して初めて成立します」と竹川さんが言うように、いま生活して育っている環境の中で日常使われている言語以外の言葉を学び続けることは相当な努力を必要とします。「たとえば、算数の九九は大事なので、それぞれの母語でテープに吹き込んであるものを聞かせて覚えさせています」日本語能力をつけると同時に母語を学び続けることは自分のルーツを保持して「自分は何者であるか」を確かなものにします。それを信愛塾では大事にしたいと壁には多言語の会話が所狭しと貼ってありました。
竹川さんは、現在、信愛塾での活動をとおして、子ども達への生活や学習支援を続ける一方で、かなり高齢の在日韓国人の体験談を面接による聞き取り調査を根気よく続けています。

「今しなければできなくなるという思いで始めましたが、子ども達を連れて一緒に家庭訪問をすることもありますし、小学校での平和学習にも生かしたいと思っています」と、お話を伺う間にも外から中の様子を伺う子どもを見かけるとすぐに近くに駆け寄って、学校の様子や今日の予定を聞くなど、近所の親しいお姉さんのようにあたたかい声かけをしていました。

☆海外子女・帰国子女のための日本語教育支援
 海外に住む日本人家族と帰国子女のための日本語支援としては、(財)海外子女教育振興財団によるさまざまな援助活動があります。
(財)海外子女教育振興財団は海外に仕事のために滞在する家庭の義務教育年齢の子どもを対象に、出発前から滞在中、そして帰国後の教育サポートを目的に1971年1月に外務省と文部省(現文科省)両省共管の公益法人として設立されました。
この財団では、海外へ行く前から滞在中、そして帰国後までの長い期間にわたって、教育相談やインフォメーション・サービス、小中学校の義務教育の子ども達への教科書の無料配布、通信教育、また、帰国後には外国語保持教室や帰国子女受け入れ校などのガイドなど幅広い援助活動を行っています。

外務省の調査では、平成15年度現在で在留邦人は586,836人。その内、海外子女は52,462人。在留邦人は10年前の平成5年に比べて15.4万人も増加しているにもかかわらず、子どもの方は1,620人しか増加していません。さらに、文科省の調査による帰国子女数は小学生から高校生までの総計で平成5年度は13,016人であったのが、平成14年には10,713人となり近年減少傾向を示していますが、未就学児の同行は増えているそうです。
その理由を財団の相談室で教育相談を担当している須藤英一先生に伺うと、「最近は学齢児童を連れて行かない家族が増えた一方で、子どもや家族が現地に長期滞在して、そのまま永住しようとするケースが増えてきている」とか。また、日本語教育を必要とする子ども達にも二通りいて、現地の日本人学校での学習や日本に帰国したときのために日本語を学ぶケースと、現地語の他に第2言語として母語を学びたいケースに分けられます。しかしながら、これらの子ども達が混在して学んでいるのが多くの日本人学校や補習授業校の実態です。また、日本人学校の有無に関係なく、保護者は子どもを現地校に通わせて早く言葉や生活に適応してもらいたいと思いがちですが、子どもの方は慣れない環境や学習言語が理解できずにストレスを抱え込み、家庭全体の問題になることも多い現状です。
オーストラリアで2人の子どもを育てている日本人の母親に現地の小学校への適応についてお話を伺いました。第3回でレポートした『多文化な子どものための英語センター』に、お子さんをしばらく通わせて、すっかり慣れたところで、現地の小学校へと転入しました。ところが、予想に反してなかなか馴染むことができなく、遊び時間も校庭で一人ポツンとしていることが続いていると学校の担任の先生から知らされました。親子で話し合いをしてから、結局、もう1学期、元の英語センターに通い直すことにしました。その結果、とても元気になって次の学期からは、現地校へと通うことができたということです。
子どもは一人ひとり個性が違うように、環境に適応するのにもその子に合った時間が必要です。親の方も試行錯誤しながら、受けとめて待てる余裕がある場合には上記のようにうまくいくのでしょうが、子どもが思春期で親や先生に心を開かないとか、親の方も忙しく自分の生活で精一杯の状況ですと、なかなか子どもが置かれている状況に気がつかないことは日本でも海外でもあるようです。
また、この夏に訪れたニュージーランド・ウエリントン市にある日本人ママ達の子育てグループでは、地域のコミュニティ・スペースを借りて週1回集まっていました。夫婦ともに日本人の母親もいましたが、ほとんどはニュージランド人や日本以外の国籍の人との国際結婚カップルで25家族も会員が登録されていました。
彼女達は当番を決めて日本の絵本を読み聞かせたり、ピアノを弾いて「犬のおまわりさん」など彼女達が子どもの時から親しんできた日本の童謡を親子で歌ったり、スポーツクラブのインストラクターにお願いして親子で体操をしたりと、ただ集まっておしゃべりするだけではなくて、積極的に教育的なプログラムで企画運営をしていました。
会の創立者の一人で3児の母親でもあるマサエ・スミスさんは、「こちらにもいろいろな子育てグループがありますが、日本人の母親が中心になって集まっているグループですから、ここではもっと日本語で日本の文化や伝統、季節ごとの行事や祭事などを子ども達に伝えていきたい」と語っていました。
どの国に居住していても、母語や母文化を伝えたいと願うのは、親と子どものルーツやアイデンティティに関わる根源的なことです。しかし、その一方では、子どもが現地の言語に慣れるに従って、母語教育が難しくなっていきます。

いままで、いろいろな国で小学校中学年くらいから、母語教室に通うことを嫌がる子ども達のことを嘆く保護者の話を聞いてきました。しかしながら、母語や母文化に触れることができる成育環境や周りからの支援が続いていると、ある年齢に達したときに、また、子どもが自分から母語を学びたいという動機づけが高まるときがくることもあるでしょう。また、前述のいちょう小学校の先生達は、外国につながる(多文化な)中学生の9割が読む力は小学校4年生、書く力も小学校の4・5年で留まっているが、それをクリアできれば、中学校の学習についていけるだろうと報告していました。

ところで、金沢工業大学・国際交流室の近江ひろえ先生はカナダに住む日本人の子どもを対象にした「ヘリテージ・ランゲージ・プログラム(民族継承語教育)」や日本語教育に関する調査研究をカナダに13年間滞在していた時から続けています。幼稚園時に2年間の日本語教育を受けた小学2・3・4年生で現在も日本語を学んでいる子ども達を対象に調査した結果では、2・3年生では、日本語学校が好きと答える子どもが7割以上と多いが、4年では反対にきらいと回答した子どもが57.1%と多くなっていました。2言語・2文化の中で成育する子ども達にとっては、学年の上昇と共に、意図的に母語を保持し発達させなければならない日本語よりも、日常の関わりが深い英語の方がより好む傾向が示されましたが、その一方では、一緒に学習する友達や仲間、先生などの集団が楽しく、教育内容が子ども達の実生活に即した学習カリキュラム内容であることは、学習意欲を高めて、また、保護者の母語や母文化に対する意識も大きく影響を与えていることも報告されていました。
成育環境を生かした母語教育や学習支援は、第一に子どもの年齢や始める時期による学習プログラムや方法の工夫が必要なこと。 そして、さらに家族や学校・自治体、ボランティアなど地域に根ざす幾重にも取り巻く連携サポート体制が大きな鍵を握っているようです。

それは、心の拠り所となる準拠集団や準拠者、つまり、子ども達が家庭・園や学校、地域で安心して心地よく集える“居場所”を提供することを意味しているのではないでしょうか。

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