【第11回】園で遊ぶ玩具・遊具の環境をめぐって

執筆者: 山岡 テイ (情報教育研究所所長)

  日本国内や海外の園を訪れると、室内や屋外の遊具環境は似たような配置で構成されています。いずれも国の施設整備指針に基づいて設備計画が行われているからです。そのような中でも、使い手である子どもや保育者の工夫や持ち味で玩具や遊具が十分に活かされている園に出会うこともあります。 また、同じ玩具・遊具でも遊び方によっては思わぬ事故が発生する危険性をはらんでいて、近年は遊具自体の安全性の見直しも再検討されています。
そこで、今回は夏休み特集として、子ども達が園の室内で遊ぶ玩具やコーナーの設置状況、外遊びのための遊具環境について写真を中心にしてご紹介します。

☆ 保育室の各コーナー展開
 園でのコーナー展開としては、子ども達が自主的に遊びを選んで自由にできるようにと、「ごっこ遊び、読書やパズル、積み木、楽器や音楽、お絵かきや工作、コンピュータやゲーム」などが構成配置されています。
ごっこ遊びとしては、台所や居間、寝室、いろいろなお店屋さんやお医者さんなど専用のコーナーや大きめのハウスやお城の他に、人形劇や影絵用の舞台としても使える窓のような枠を用意している園も多く見受けられます。ファンタジーや劇の登場人物用や舞踊のために民族衣装や簡単な楽器を保護者が制作・提供している園も多いようです。多文化保育には、このような民族衣装を着て遊べる体験ができる環境づくりもいいですね。
スペースに余裕がある園では、それぞれのコーナーが独立しており、お絵かきや工作用の「美術室」、読書・紙芝居・パズルやコンピュータが一堂に揃う「図書室」、英語や多言語イマージョン教育の「語学室」、広いスペースに跳び箱、マットやトランポリンまで揃っている独立した「体育館」を持っている幼稚園もあって、さながら学校施設のようです。
また、プラスチックの小さなボールが大きなプールのようなスペースにたくさん入っていて中で泳げる遊具や迷路のトンネルの障害物を越えて進むなど、日本ではデパートやスーパーの屋上に設置されている大がかりなアスレチックのような施設もあって、まるでアミューズメント・パーク。

このような大型遊具は、もともと外遊び用に作られたものですが、寒い季節や雨の日には、からだを使う屋内遊具として子ども達の人気を集めていました。
その一方では、狭いアパートの一室で年齢混合の保育をしている無認可保育所では、所狭しと遊具が置かれているのが現状です。家族的な雰囲気の中で保育者がタイミングを考えて、適時に玩具を押し入れから出すなど、母親のような配慮で異年齢の子ども達が同じ玩具をきょうだい同士のように遊べるように促していたのが印象的でした。
また、保育者や父母が手作りしたなかなか趣味性の高い遊具や教育メソッドに基づいた玩具のみを使っている園も見られます。台湾、中国、韓国、日本などアジアの都会の幼稚園では、絵本や玩具を遊んだあとに、どこにどのように片づけるかを考慮した環境づくりを本箱やおもちゃ棚などで予め設計してある所が多く、限られた空間を上手に活用していました。

☆ 園庭でのさまざまな遊具の安全性
 園庭は都心部と郊外や地方では土地の広さが異なるために、自由な空間の使い方に格差が見られます。
都心部の園を廻ってから、郊外や地方の園に行くと、遊具もゆったりと配置されており、子ども達が走り回れる十分なスペースがあり、年輪を重ねた樹木が子ども達の守り神のように大地に根をはり、大きな枝を広げて遊ぶ姿を見守ってくれているようです。
それぞれの園の立地条件を生かして、丘陵や坂道などを遊びの動線としてうまく活用している所や大きな樹木に秘密基地のような「樹上の小屋」やハンモック、ブランコを作っている園もあります。 一般的には、屋外遊具としては、すべり台・ブランコ・ジャングルジム・ラダー(のぼり棒)・シーソー、それらの複合遊具などの中から組み合わせて設置されています。

「すべり台・ブランコ・ジャングルジム」は屋外遊具のいわば三種の神器です。どろんこ遊びや水遊びができる「砂場」も必須アイテムですね。
また、素材としては、木製の遊具にこだわっている園やカラフルな近代デザイン感覚のユニット遊具などさまざまですが、結構お目にかかるのは、古いバスや電車のイス、タイヤ、遊園地の遊具などの再利用です。
ところで、同じ国の中でも時代によって遊具の素材も変化します。 たとえば、中国では1990年代前半までは、竹や木の素材が多く、パンダや伝統的な中国画が描かれていましたが、90年代後半からは、あらゆる玩具や遊具の素材がプラスチックなど化学素材になり、描かれる絵も高級感溢れる長毛種の猫や西洋の動物がとって変わってきました。
基本的には、北欧やドイツにある有数の遊具メーカーのデザイン・コンセプトや安全規格基準がどの国に行っても影響力が大きいことを感じます。 ドイツでは、DIN18034という遊び場の土地計画策定の基準や遊具専門のドイツ工業規格DIN7926があり、危険性(リスクやハザードの両面)や安全性、責任性の所在など厳しい審査基準に合格した認証として「TUV (テュフ)マーキング」が許可されます。 その他にも、「CEマーキング」というヨーロッパ連合(EU)やヨーロッパ自由貿易機構(EFTA)における法的規制に対する適合性表示マークがあります。

現在、遊具の安全性と遊びの質の保障を目指すDIN7926は遊具の総括的な基準として多くのEU加盟国の国内基準の参考にされており、カナダ、アメリカもEN(欧州規格)であるこれらの安全基準を採用しています。
http://www.jpn.tuv.com/jp/jp/services/product_testing/ce_marking/

私がドイツ滞在中に交流があった1980年代から90年代の消費者関連団体の代表責任者・商品テスト財団Dr.ヒュッテンラオホ理事長は、「我々は中国での市場開放経済後の技術援助をするためにDINに基づく指導に多くの時間とエネルギーを費やしている」と当時は語っていましたが、その成果は果たして現在の中国の園現場での玩具や遊具に活かされているのでしょうか。
https://www.test.de/
  日本では、「ST(セーフティ・トイ=安全玩具)マーク」という玩具の安全基準があります。STマーク付きの玩具が原因で発生した対人事故、対物事故において契約者が被害者に支払った法律上の損害賠償金や訴訟費用に対しては、補償額は対人1人1億円、対物2千万円、見舞金30万円が設定されています。
近年、遊具関連の事故が相次いだために、行政レベルで遊具の安全対策を実施している区市町村も見受けられますが、多くは事故が発生した後の再発防止策として行われているようです。事故が起きてからではなくて、メーカー側の自主規制の強化と使い手側のほうも、より正確な危害情報の入手や詳細な再点検が必要なのではと思われます。

☆ 玩具はコミュニケーションの橋渡し
  園で使われている玩具に限らず、家庭でもさまざまな玩具が赤ちゃん誕生時からつぎつぎに待っていて、私たち大人も夢中になるような楽しい夢のある玩具もありますね。
玩具として売られている完成品ではなくても、第6回の「ニュージーランドのプレイセンター」のように、「水・粘土・粉・砂・ビーズ・コラージュ」など自由自在に変化させることができる遊びの素材を選んでいます。
また、モッテソーリやシュタイナーなど教育メソッドに基づいている園では、玩具や遊具自体の選定から始まり、コーナーづくりや園全体が総合的にデザインされています。
砂や木目など自然素材の肌触りや感触を、子ども達に遊びを通して伝えていこうという姿勢が見られます。そして、国によってはモンテッソーリの遊具、アメリカや日本の知育玩具メーカーの教材をミックスして使っている園も見られますし、近年はいろいろな国でレッジョ・エミリアとモッテソーリを融合させている園が増えているようです。
日本でも親や保育者は教育的配慮から、子どもの創造性を引き出すような可塑性のある玩具や素材を選んで与えたいと思いますが、子どもが喜んで遊ぶ玩具とは必ずしも一致しないので、両方の玩具が家庭でも混在している環境ではないでしょうか。

木でできた積み木は魅力ある玩具のひとつといえます。日本の代表的玩具作家で「童具」という造語を生みだした和久洋三さんは、基本的には丸・三角・四角で構成される積み木やボールのバリエーションで玩具ならぬ「童具」を創作提供しています。
プラスチック製の玩具が優勢な現代で、木製の積み木のもつ魅力について、彼は、「木は大きさに応じた重量感をもち、独自のぬくもりがある。子どもは小さいものは軽い、このくらいは重いというように、大きさと重さを感じとる心地よさをよく知っている」と言います。また、木肌色の積み木をいろいろなものに見立てて遊びのイマジネーションの世界を広げていきながら、人間とモノとの深まりから関係性が生まれていくことを、和久さんは多くの子ども達が遊ぶ姿から確信してきたようです。http://www.dougukan.com/

じつは、古い私事ですが、長女が2歳になる少し前に、ドイツへ取材旅行に連れて行きました。私が園長先生からお話を聞いているときに彼女は、訪問先の幼稚園の砂場や室内で遊んでいたり、お茶の時間には、園児と一緒に机に座って牛乳をもらっていたりと過ごしていたのです。

そのときは、とくに日本からおもちゃを持参しないで、ドイツの友人宅で屋根裏部屋へ行って、友人の大きくなった娘達が小さなときに愛用したおもちゃを借りることにしました。 娘が自分で選んだおもちゃは、木製の丸い小さなカラーボールをいくつかとそのボールの穴につなげられる木の棒と形の異なった積み木でした。その限られたおもちゃであきることなく1ヵ月半の滞在中ずっと遊んでいました。 ところが、日本の自宅に帰ってきたときには、玄関から自分のおもちゃコーナーに向かって一直線。それまでの空白を埋めるように、それは楽しそうに自分の聖域ともいうべきテリトリー(なわばり)でたっぷり遊んで自分を取り戻していました。

母親同士でよく話すことですが、遊園地や地方へ家族旅行をして、家へ戻ると子どもがお気に入りのおもちゃの所へ駆けていくので、「旅行は楽しくなかったのかしら?」と思うこともしばしば。それは、きっと、子どもはおもちゃで遊ぶことで自分の世界を確認しているわけでしょう。

話を本題に戻しますと、多文化教育・保育ツールの一環として、身体機能などの発達障がい児用の玩具や遊具を公的なサービスとして貸し出している国は多いようです。このことからも「多文化」という言葉の定義の中には、外見や内面で異なった背景を抱える人達を包括していることがわかります。具体的には、不自由な部分を補助したかたちで作られた玩具が用意されていて、必要に応じて園や個人に貸与されています。また、町によっては車イスで来て遊べるように設計された遊具が並べられていて、ブランコにも固定ベルトがついているなど、バリアフリーの公園もあります。

しかし、その一方では、特別に設計された玩具ではなくても、普通の玩具を相手の個性や病状に合わせた使いかたで、コミュニケーションをとっていく方法もあります。
全国に600以上の連絡登録数をもつ「おもちゃ図書館」の設立を行い、現在は玩具福祉学会理事長の小林るつ子さんは、長い間、玩具のスペシャリストとして、障がい者も含むいろいろな親子に関わってきました。そんな彼女が、いま取り組んでいるのは、玩具を通した高齢者とのコミュニケーションです。http://www.gangufukushigakkai.org/
「いままで、社会で一所懸命生きて社会に貢献してきたお年よりの中には、痴呆になって淋しく暮らしている方も多いので、おもちゃを介在させて、リハビリや癒し効果に役立ててもらいたい」と次世代のボランティア活動家を育てることに情熱を燃やしています。

ハンカチ一枚でも、ボール一個でも、玩具は相手と心からコミュニケーションしたいという「思いを伝える橋渡し」になってくれるのは、世代や文化、障がいを越えて誰とでも可能な気がします。

そして、子どもが発達のいくつかの段階で、自分と向き合って自分の世界を自由に創りあげることができる、そんな「玩具や遊具とのいい出会い」の環境づくりを心がけたいものです。

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