【第10回】町田国際交流センターでの中国人ママの教育事情

執筆者: 山岡 テイ (情報教育研究所所長)

 昨年度は、おもに海外での多文化子育てや教育現場からのレポートをお届けしてきました。 今回からは、日本国内での多文化子育ての実態や支援活動の事例をいくつかご紹介します。   現在、全国の区市町村にある国際交流を目的にしたボランティア・グループでは、独自の企画が実施されており、そこには、国籍や民族を超えてさまざまな人たちが集まってきています。それらの中から、「中国ママの会」がある東京町田市の「町田国際交流センター」の活動をとおして、中国人母親達の育児・教育観を伺いました。

☆町田国際交流センターでの活動状況
 町田市は東京都の南西部に位置しており、人口およそ40万人で、自然や緑が残る東京のベットタウンです。周辺には郊外型の大学も多いために学園都市のような印象もあります。2003年末の統計では、町田市在住の外国人登録者は77カ国籍4,017人で人口の約1%と、東京区部の割合に比べると少ない比率です。
外国人の中でもっとも多いのは中国人の1,328人、つぎが韓国・朝鮮で1,161人、フィリピン396人、米国217人、英国91人、タイ79人が上位5位です。外国籍別の構成比では、中国人が3割強で、韓国・朝鮮が3割、米国・英国がそれぞれ1割を占めています。
ちょうどこの4月1日から町田市文化・国際交流財団(MCIF)は、町田市文化振興公社(市民ホール)と財団法人町田国際協会が合併改組されたところで、地域市民への文化事業と国際交流活動が統合されて行われることになりました。

全国どこの国際交流関連の団体でも同じですが、ここも参加会員の会費とボランティア活動に支えられています。3月末の会員数は個人会員が562名、学生会員16名、賛助会員27口、団体賛助会員8口でした。ボランティア会員は入会後、「外国語部会・日本語教室部会・外国人相談部会・国際理解部会・交流部会・国際協力部会・広報部会」の7つの部会に所属して活動を行うことになります。
土曜日に訪ねてみますと、まず、日本語教室が朝の10時から始まりました。 会場である町田市民フォーラムで開催されている日本語教室は3つの団体が活動しており、まちだ地域国際交流協会(MIFA)、町田市文化・国際協会(MCIF)と町田日本語の会です。 昨年10周年を迎えたMIFAの長尾勝人さんは、「現在の学習者は中国人が多く、市の広報やニュースレターを見てくるようです。ここでは1人の支援者が1人か2人を担当しますが、平均して2~3年は継続していますね。

支援者は学習者一人ひとりの国民性や文化を理解して接するように努めており、スキルアップのための講習会や勉強会をする一方で、全体の交流会として新年や夏の集い、ワンポーション・パーティなども例年企画していますよ」と説明してくれました。 町田市には50以上ものボランティア団体があるとか、そのためか活動の拠点となる場の確保もたいへんな作業。それは、全国どの地域でも多くのボランティア活動グループが抱える問題のようですね。

同じ時間帯に、別の部屋では、小中学生の子どもを対象にした「日本語子ども教室」が行われています。ここでは、現在26人の支援者が31人の子ども達に毎週土曜日に個人対応で日本語を教えています。ひらがなを書く練習をしている低学年の子ども達、数学の宿題を教えてもらっている中学生、絵かるたで遊びながら文字を確認している7歳の子。ホワイトボードを使ってゲーム感覚で漢字(中国語)と日本語での読みを書き合っている子ども達もいました。
学生ボランティアの今田藍さんは、市の広報誌で夏休みに宿題を手伝う子ども日本語教室の活動を知りました。それがきっかけとなって、現在は土曜日の支援活動も続けて参加しています。子ども達の学年が上がるとむずかしくなる教科も多いようですが、「子どもは一人ひとり個性が違うので、子ども達をとおしていろいろな国民性がわかるのが楽しい」と、心理学専攻の学生さんらしく子ども達の発達や人間性に温かなまなざしを向けていました。

☆中国町田ママの会を核にして
 東京や大阪近郊には多くの国際交流協会やボランティア・グループがあります。とくに、大勢の外国人が住む地域では多文化共生を目ざしたユニークな支援活動が展開されており、貴重な印刷物もつぎつぎに発行されています。たとえば、ネット上でアクセスできる便利情報としては、(財)神奈川県国際交流協会の多言語の医療問診票http://www.kifjp.org/medical/、多文化共生センターでのブラジル医師による電話多文化医療相談、また、大阪大学留学生センターは、(2010年に大阪大学国際教育交流センターに改組http://www.ciee.osaka-u.ac.jp)留学生や外国人研究者を対象としたコミュニティ生活情報が満載など、特色あるサイトによる支援も増えてきています。
そして、私が事務局をしています「多文化子育てネットワーク」に寄せられるメールには、多文化な保護者からの子育てサークルやママの会の所在に関する問い合わせが多く含まれています。
この町田国際交流センターでは、中国人の母親達の子育てサークルである「中国町田ママの会」が毎週第3日曜日に集会をもっています。中国ママの会は、2000年6月に発足。当初の代表をしていた王暁鳴さんは、在日中国人の多くが購読している中国語の新聞で、“日本に住んでいてもなかなか友だちに出会えなくて寂しいので中国に帰る”という女性の記事を読み衝撃を受けたのです。その後、彼女は思い立ってすぐに子育て中の母親達がお互いに交流できる中国ママの会を作ったのです。彼女自身は、男の子3人の母親で画家でもあり、中国の芸術大学で教鞭をとるなど働く母親でもあるのです。また、夫の仕事の関係で、3人の子どもを京都、アメリカ、東京で出産するという経験をしました。
「子ども達にはどこに住んでいても母語である中国語を身につけてほしいと思い、ママの会の活動として中国語講座も開催しました。でも、テキストの内容は年長の子ども達にはやさし過ぎるし、小さな子は走り回ってしまい、なかなか思うようにはいきませんでしたね」
また、入会する親達は大きな期待をもってくるのですが、サラリーマンの家庭が多いと、休日の日曜日は何かと用事ができてしまうことがあるので、水曜の午後にしたこともありました。また、集会場だけではなくて、なるべく青空の下でピクニックなどの屋外イベントを企画しているそうです。
彼女は、3人の子ども達を連れて日曜日の集会のほかにも、町田国際交流センターを大いに活用しています。土曜日の10時には、子ども達を「日本語子ども教室」に参加させています。お昼には一度家に戻ってから、また、午後の外国語講座に参加するために再び会場へ訪れていました。
彼女は4年生の長男の国語表現力について、「日本語子ども教室」の支援者である三村敏子さんと話していました。
「長男は日本で生まれて日本の保育園から小学校に通っているので外では日本語、家庭では両親と中国語で話しています。日常会話には不自由はしていませんが、表現力や語彙がなかなか増えないのが心配。たとえば、“川が見える”、“川を眺める”、“川面を見つめる”などが、どれでも“見る”とか“見える”という表現だけになってしまいます」と、なるべく読書をしてもらうようにしているそうです。しかし、語彙力といえば、必ずしも日本語を母語としない家庭の子どもだけではなくて、最近は一般的に日本人の子ども達も十分ではないように思います。また、「日本語子ども教室」のボランティア支援者の方々は、化学や数学の専門家や海外在住経験が長い人など、経歴や背景も多彩な顔ぶれでした。
外国語部会は、英語・フランス語・ドイツ語・韓国語・中国語・スペイン語・インドネシア語の7つの語学サークルで構成されており、土曜の午後にはスペイン語、フランス語入門、ドイツ語サークルが開催されていました。そこで、私も38人が受講生というフランス語入門クラスに参加させてもらいました。コーディネーターは、小野沢秋子さんと高橋雅夫さんのお二人で、フランス語の基礎文法をフランスの文化紹介をまじえてテンポよく教えてくださる楽しい授業内容でした。
別の部屋では、町田市文化・国際交流財団の「外国人のための専門家相談会」が開かれていました。1998年にスタートした相談活動ですが、相談内容として多いのは、[1] 結婚・離婚・親子問題など44.4%、[2] 在留資格・ビザ・旅券27.8%、[3] 労働・賃金・労災・解雇など11.1%の順でした。ここでは、直接の面談をするほかにも、電話での相談も受け付けていますので、市外からの相談もくるそうです。
また、父母会や病院などへの同行相談も行っているとか。この日は4人の相談員が待機していましたが、その内1人は日本人と結婚している中国出身の女性で、他の方々も英語やスペイン語ができるので、多文化な利用者に対応できる態勢でした。週に2回行っていますが、開催情報が行き渡っていないためか利用者が少ないので、今後は相談会の告知を広く伝えていくことも課題のようでした。
なお、そのほかにも、東京国際交流団体連絡会議や東京国際交流委員会が各地域の交流協会と共催で、弁護士・精神科医・行政書士・社会保険労務士・歯科医師・労働相談員などの専門家が20以上の言語通訳を伴って、外国人のためのリレー相談も行っていますので、最寄りの国際交流協会で開催するときには無料で専門家から助言や診察の機会を得ることもできます。

☆日本の中での中国人の言語教育
 日本に住む多文化な背景をもつ保護者達を対象に私達が行った「多文化子育て調査」の結果では、子育ての一番の気がかりは、「母語の教育や文化を学ばせること」でした。回答者の国籍でもっとも割合が高かったのが中国人でした。
そこで、中国人ママの会で出会ったという4人の母親に集まっていただいて、母語教育を中心に日本での子育てについてのお話を伺いました。
4歳の幼稚園児の母親である崔さんは、日本で大学と大学院を終えてから中国語教室の先生をしていました。
「ママの会には2年前に入りました。主人が国際交流に関心があるのでネットで調べて、こういうのがあるよと教えてくれました。ここは2〜3歳の子どもをもつ母親が多いので、いろいろな子育て情報交流ができますね。焼肉パーティとか遠足とか、親子で楽しいですし、子育てのいい気分転換になっています。家では父親が日本人なので、日本語を使っていますが、子どもがあるとき、幼稚園から帰ってきて、『わたしは中国人なの?』と聞かれました。それで、もっと中国の文化や中国語を意識して子どもに伝えていかなくてはと思いました」と。
そして、中国人ママの会に参加していると、「子どもが中国人であるという意識を植えつけるのにいい機会だと思っています」と受けとめています。お子さんは2人とも日本で出産したのですが、中国から実家のお母さんがきてくださったそうです。そのときに、中国では1歳前にトイレトレーニングをして、おむつはずしをするのに、日本ではどうしてあんなに大きくなってもまだおむつをしているのかと驚いたそうです。
でも、中国でも伝統的な「股割れパンツ」は、都会では姿を消してしまい、まだまだ高い紙おむつが優勢になってきています。ちょうど、日本の1970年代後半から80年代前半にかけて紙おむつが一般的になってきたときと同じような現象が現在は起きています。
福澤さんも3歳児のお母さんですが、彼女は夫が中国人で、現在、ママの会の代表をしています。以前から台湾の親しい友人がいて、中国語に関心をもち中国語の勉強のために北京に1年間留学した経験もあるとか。家庭では日本語と中国語の両方を使っているそうです。
「いま、中国のおばあちゃんが一緒に住んでいるので、子どもが中国語でおばあちゃんと話ができるといいと思います。台湾人の友人ともメールでずっとやりとりしているけど、そういう人と知り合いになれたことで、隣りの国がとても身近に感じられるようになった。子どもにも、世界は広いのでいろいろあるということを見せてあげて、子どもが将来どの国でも暮らせるように自分で選べるようになってほしい」と語っていました。
2人の小学生の母親である金さんは、在日12年で、日本語はとても流暢。彼女は9歳まで中国の朝鮮民族がいる地域に住んでおり、その後は北京に転居して中国語の教育を受けました。ですから、家庭では両親は彼女に朝鮮語で話しかけて、彼女は中国語で話していたそうです。すでにお亡くなりになったおばあちゃんとは朝鮮語で話していました。
「言葉というのは、コミュニケーションに便利なほうを使うんですね。一応、親からは朝鮮語を使いなさいと言われたけれど、私は中国語で返していた。子どもが中国に行くと、主人の両親は結構、日本語がわかるので、年齢的に70代ですので、日本語がわかりますね。私の親には中国語と朝鮮語をまぜて話しています。家では夫婦の間では中国語ですが、子どもには最近なるべく中国語で話ししています。でも、子どもからは日本語で返ってくるので、私が親にしたようなこととまったく同じようにしているわけです」
周さんも小学生のお母さんです。彼女は日本の中学と高校で中国語を教えていますので、教育論を熱く語ってくれました。お子さんには小さなときからバイリンガルに育つように、家庭ではずっと中国語を話してきたそうです。日本に住んでいるのだから、日本の社会に溶け込むためには「外では日本語、家では中国語」が教育方針。
家庭で中国語を積み重ねて学ぶのは母語だからという理由だけではなくて、言葉は継続が大事という信念から、いろいろな環境や学びの工夫をしているようです。毎日少しずつでも続けていることで、言葉の力が身につくことをお子さんと一緒に実践してきたわけです。

「これからのグローバル時代では、英語・中国語・日本語が必要になってくると思います。私は最近、あまり中国人だからという国籍を意識しなくなってきました。子どもにも中国人としてのアイデンティティを持ちながら、日本のいいところを取り入れて育っていってほしいと思っています」
町田中国ママの会では、あえて、すでに長く日本に住んでいる家庭での母語教育や将来の教育観についてお聞きしました。日本語が十分にできる多文化な保護者は、子どもの将来の教育に関して、質は異なるものの日本人の親と同じように期待や不安を抱えています。さらに、これから先、子ども達は日本でずっと教育を受けて就職して暮らすのか、それとも、中国や他の言語圏の国で住むことになるのかなど、子どもの可能性へと思いを馳せていました。

これからは、日本の大学や企業は魅力ある教育や仕事を提供することによって、日本で育った多文化な子ども達も含めて、アジアを中心とした世界のさまざまな国から国籍を超えたグローバリアンが集まってくるようになりたいものです。

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